馬喰町ART+EATのランチのレシピを作っている料理研究家・小川美穂が綴る「世界の食をめぐる」楽しいエッセー。実際に滞在したアフリカや中近東の国々のおいしい家庭料理の作り方や、「食」をキーワードにして観たそれぞれのお国柄、興味深いエピソード満載のページです。
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人というのは一生のうちでいつどんな素敵な出会いが待っているか分からないので、私は出会いを大切にしたいと日ごろから考えています。
自分に影響を与えてくれる人に出会えることは私の財産なのです。
私は主人の仕事の関係上、海外を転々と移り住みましたが、どこの国でも違和感なく溶け込んで生活し始めたものでした。
しかし、レバノンだけは例外でした。
着任早々、19年続いた内戦のせいで弾丸の跡がハチの巣のようになった多くのビルを目にし、廃墟となった街並を車で通るたびに、とんでもない所に来てしまったものだと恐ろしくなりました。
そして、子供たちを連れて一目散に日本に逃げて帰りたいと、毎日泣いて暮らしていました。少なくてもマリとジョーに出会うまでは……。
彼女達との出会いはどこかの国の大使館のパーティでのことでした。私たち3人はすぐに意気投合し、その日からまるで十数年来の親友のように付き合い始めました。
太陽を浴びたひまわりのように美しく輝いているマリはイタリアの外交官夫人、カナダの外交官夫人のジョーは洗練された大人の女性、非の打ち所がないとは彼女のためにあるような言葉だと思ったものです。
次の日から、私たちはいっしょにスポーツで汗を流したり、お互いの家でランチをして一日中時間が許すかぎりいろいろな話題に花を咲かせました。それは人の目には井戸端会議のように映るかもしれませんが、当人達にとっては紛れもない情報交換だったのです。
私たちの情報交換の中には、お互いの得意料理のレシピー交換がありました。
ジョーの家でいただいたブラウニーが美味しいと私が褒めると、私が家に帰るころには私のパソコンのメールにブラウニーのレシピーが送られてきました。
ジョーのご主人は大の甘党で、彼女はいつも午後になると愛するご主人のためにケーキを焼いていました。 彼女のスイートのレシピーは大変な数でした。彼女から教わったケーキは私の定番デザートです。
マリはイタリア料理がお得意でした。特に彼女のパスタは抜群に美味しく、素材の味を生かしたパスタで作り方もシンプルです。私はマリに会ってパスタ料理を習ってから、パスタは自宅で自分で作って食べるものというようにパスタの概念が変わりました。
今日はジョーから教わったブラウニーのレシピーを紹介します。
◎材料
INGREDIENTS
エキゾチックな味を楽しむならハーブを上手に使うのがお料理のコツです。
レバノン料理にもハーブは欠かせません。
コリアンダー(パクチー)とイタリアンパセリは特によく使われますが、ミント、クミン、シナモン、ターメリック、パプリカ、スマックなども上手に使い、料理にアクセントを出します。
私がここで注目するのはスマックと言われるアラビア料理独特のハーブです。
酸味の効いた赤い色をした粉は、日本のしそのふりかけ「ゆかり」に少し似ています。
スマックはよくホモスやババガヌーシュなどのトッピングとして使われ、その赤い色は仕上がりをよりアラビアらしく演出してくれます。また、サラダにかけたり、朝食の卵料理にかけたりしてその酸味とピリピリ感を楽しみます。
私は夏の暑い間に庭で採れたパセリを冬のために保存しておきます。
その方法は2種類あり、冷凍保存と乾燥保存です。
お料理に合わせて冷凍パセリか乾燥パセリを使い分けます。
煮込み料理のようにパセリの風味がほしい時には冷凍パセリ、グラタンやパスタのように彩にパセリが欲しいときは乾燥のほうを使います。
今回は私の料理教室の仲間達を紹介したいと思います。
毎月、第2月曜日にさいたま市の緑区の三室公民館で私たちは「世界の食卓」というクラスを開き、世界中の食べ物を自ら作って研究し、食べて飲んで、おしゃべりして楽しい時を過ごします。お料理が大好きな私たちも話題はいつも食べることばかりと言うことは言うまでもありません。
◎材料(5人分)
堅めに炊いたご飯にバターとパセリのみじん切りを混ぜる。無塩バターのときは一つまみの塩を入れるとよい。
パセリはフレッシュなものに越したことないけれど、いつもあるとは限りません。そういう時は冷凍パセリや乾燥パセリが大活躍します。今回はチキンと豆のトマト煮込みには冷凍パセリを使い、バターライスには乾燥パセリを使いました。
レバノン料理に欠かせないのがニンニクです。
大抵のレバノン料理にはニンニクが大量に使われています。私もレバノンに行ったころははあまりのニンニクの量の多さに驚き、食べた後の口臭のことなどを考えると食べるのを躊躇したものでした。しかしレバノンでは「ニンニクは皆で食べれば怖くない!」のです。
レバノン人にとってニンニクは元気の源、ニンニクを食べないとレバノン人はヘナヘナになってしますのです。ニンニクのパワーは日常に欠かせないのです。
だからこそ、ニンニクのほんとうにおいしい食べ 方をよく知っているといえるのかもしれません。
代表的なレバノンのニンニク料理の一つにガーリックソースがあります。このソースはグリルしたチキンによく合いますが、好みで何にでもつけていただくことができます。覚えておくと便利なソースです。ぜひ、作ってみてください。
私は地中海といえば、蒼い海、白い壁の家、オリーブ園を想像します。
私は30年ほど前にスペインの田舎を2週間かけてゆっくりと旅をしたことがあります。
スペインのどの村に行ってもオリーブ畑が一面に広がっていて、それはのどかなとてもよい景色でした。当時、日本ではオリーブに関してあまり知られていなく、オリーブオイルにいたっては私もほとんど口にしたことがありませんでした。
その旅で来る日も来る日もオリーブオイルがかかったお料理をいただいていますと、数日後、オリーブオイルは「もう、うんざり!」と言うふうになってきました。田舎のホテルのレストランで「オリーブオイルで調理してない料理を」と注文するのですが、そのたびにオリーフオイルがたっぷりかって出てきました。
とうとう、スペイン最終日、マドリッドで日本料理の店「なおみ」(今もあるのかな?)に逃げ込み、お願いしました。「オリーブオイルの入っていないものを何でもいいですから食べさせてください。」
そんな嫌な経験も手伝ってオリーブオイルに関してはいい印象がなく、長年、オリーブオイルと疎遠な関係を続けていました。そして、レバノンに赴任しました。
レバノンではオリーブはオリーブ園ではなく何処こことなく道端にも生えていました。
車から見る道端のオリーブの木はホコリにまみれてどこから見ても美味しそうな実をつけるとは思えないのです。ますます、オリーブの印象が悪くなってきました。しかし、町のマーケットにはオリーブのピクルスが何十種類も山にして売っていて、なんだかその光景は京都のお漬物屋さんも似てどことなく懐かしく、オリーブに興味のない私にさえ美味しそうに見えたものでした。
ある日、運転手のトニーが親戚の山の家で造ったという、絞りたてのオリーブオイルを空き瓶に入れて持ってきてくれました。サラサラしたオリーブオイルは宝石のように輝き正真正銘なオリーブ色をしたジュースのようなオイルでした。そのお味は今までに口にしたことのない、円やかな味でさわやかな香りでした。
食後、食器洗いをして驚いたのは、お皿に残ったオイルはお湯をかけるだけでさらりと溶けていくのです。このオイルなら体に入っても水やお茶を飲むことで流してくれるだろうと確信しました。
私はそれから体によいオイルか悪いオイルかという判断を、お皿を洗うときにするようになりました。もし、お湯でさらりと流れるようであればよいオイルということで私の中で「合格」なのです。
もうひとつオリーブオイルに関して私なりの疑問がありました。
それは、地中海の女性の肌はどうしてあのようにシミひとつなく艶やかなのでしょう?
確かに日焼けして小麦色な女性は沢山いるのですが、彼女達にはシミがないのです。
あの様に紫外線の強いところで生活して、しかも乾燥しているというのに、なぜシミがないのだろうかと考えました。その答えは、もしかするとあのオリーブオイルにあるのではないかという気がしてなりません。これはあくまでも私の想像と偏見なのです。科学的根拠はないのですが…。
わたしはそう思うようになってから、俄然、オリーブオイルが好きになり、今や何につけてもオリーブオイルです。サラダのドレッシングとしては勿論のこと、パスタの仕上げに、トーストに,冷奴にも岩塩とオリーブオイルでいただきます。オリーブオイルは火と通すとその効果がなくなるので、食卓においてお醤油感覚で使っています。
ちょっと贅沢にお値段がお高めのヴァージンオイルを買い、素敵な容器に入れて食卓においてみるのもはいかがでしょう。
美容と健康のために!
レバノン人はフェニキア人の末裔だと言うことをご存知ですか?
フェニキア人は何千年も前に商業を中心に地中海をまたにかけて活躍していた民族です。
その彼らが愛したのがlabanとlabnehです。
LBNは古代の言葉でWhite(白)と言う意味だったとか、
そして、そのLBNがLEBANON(レバノン)の語源と言われているそうです。
laban(ラバン)とはヨーグルトのことです。
labneh(ラブネ)とはヨーグルトをこして作ったクリームチーズのようなものです
ラバン(ヨーグルト)は日本ではジャムなどと一緒に甘くして頂きくのが定番ですが。レバノンではソースとして色々なお料理に使います。代表的なのはきゅうりのヨーグルトソースです。その他にも色々なソースやディップにヨーグルトを使います。
また、ヨーグルトは鶏肉やラム肉と香辛料を合わせて漬け込んだシュワルマにもつかわれます。シュワルマは薄切りにした肉を丸いパンにはさんで食べるのですが、レバノンのどの街角にも売られているレバノンのファーストフードです。
ラブネは簡単に家庭でも作ることができます。ヨーグルトを木綿の布で一晩かけてこし、余分は水分を抜きヨーグルトを濃厚なクリーム状にします。
こしあがったら器に入れ、塩をひとつまみふり、オリーブオイルを表面にかけて出来上がりです。
レバノンではどの家庭にもこのラブネが冷蔵庫に保存されています。私たち日本人が豆腐を冷蔵庫に保存しているようなものです。
このラブネは主にレバノンの丸いパンに塗っていただきます。
また、朝食のオムレツにチーズの変わりにこのラブネを入れてみてください。とても美味しいまろやかなオムレツができるのは請け合いです。
ラバンとラブネ、共にレバノン人とって日常生活にはなくてはならないものです。また、それらは何世紀にわたり彼らの健康を支え、パワーを与え続けてきた優れた食材であるともいえるでしょう。
私にはこの白い食材には何か奥深い秘密が隠されているように思えるのです。そしてそれらを愛し続けたレバノン人が「白い色はレバノンの色」と言っているようにも思えるのです。
我が家の食卓に欠かせない調味料の中にピリピリがあります。
ピリピリはモザンビークのチリソースで、言葉の由来はスワヒリ語で唐辛子。
その響きが日本語でも伝わってくるように超激辛チリソースです。
モザンビークではこのチリソースを色々な料理にかけていただきます。たとえはバナナの葉でくるみ蒸した白身魚や海老、串焼きにした鶏などなんにでもかけていただきます。
私は以前にモザンビークの大使夫人のランチにご招待され、その時このピリピリと初めて出会いました。一口頂いて衝撃を受け、fall in love!!
あまりにも私が美味しそうに食べるので、そんなに気に入ったのならと大使夫人が作り方を公邸のキッチンで教えてくれることになりました。
私はその日のうちに材料を買い込み、早速、忘れないうちに自宅で作ってみました。
激辛のファンの家族も大絶賛なのは言うまでもなく、それ以来、ピリピリは我が家の食卓に欠かしたことがありません。
我が家では、鍋物、ラーメン、焼きそば、カレー、パスタ、ピザ、麻婆豆腐、ありとあらゆる料理にかけて頂きます。ピリピリはまさしく魔法の調味料です。ピリピリをほんの少しかけるだけでどんなお料理も驚くほど美味しくなります。
私の友人パウロは、アンゴラ系アメリカ人です。彼にピリピリの話をしたらアンゴラにも同じようなチリソースがあると言い、そのソースを自ら作ってくれました。
ピリピリより複雑な味のチリソースでした。
たまねぎ、トマト、ピーマンも入った、さわやかな風味でメキシコのサルサにも似た感じのチリソースでした。
アンゴラのチリソースも、食べ方はピリピリと同じで食卓において気に入ったようにお料理にかけて頂いたり、チキンやお魚料理の下味としても使うそうです。
モザンビークとアンゴラどちらもアフリカ大陸の同じ緯度にあり、東海岸側のモザンビーク、西海岸側のアンゴラと対称の位置にあります。どちらもかってのポルトガルの植民地。
私たち日本人にとってはどちらも区別がつき難い遠いアフリカの国ですが、それぞれ、独自の文化を持った国だと言うことをこのチリソースが物語っているようです。
私はそれぞれの国に心から敬意を表したいと思いました。
「世界で最も美味しいのはレバノン料理だ」と、いうことを聞いたことがあります。
では、なぜ???
レバノンは地中海に面したアラブの中の小国です。
しかし、アラブとは思えないほど緑が多い国、
人々は1年を通して豊富な種類の野菜と果物を食します。
そうなんです。レバノン料理には、トマト、ナス、キュウリ、ニンジン、タマネギなどの野菜や、パセリ、コリアンダー、ミントなどのハーブが驚くほどたくさん使われます。また、レモン、オレンジ、リンゴ、ブドウ、サクランボ、ビワ、ザクロなど、みずみずしい果物がいつでも食後のテーブルを彩ります。
さらに、レバノン人は乳製品と豆類と絞りたてのオリーブオイルもふんだんに食べます。
レバノン料理はとっても健康的なバランスの取れた食事なので、体が自然に美味しいと感じるお料理なのです。
私は外交官の夫と二人の子供たちと2年間レバノンのベイルートで暮らしました。私たち家族は大好きなレバノン料理を食べるたびに、「レバノン料理はすべ ての料理の原点ではないか?」と話し合っていました。
イエス・キリストが誕生した以前から、人々はこの地をクロスロードとし、文化や貿易を交流させてきました。当然、彼らが食べていたであろう食事もこのクロスロードを通じて各地に広がったに違いないと考えます。
私たちが舌鼓を打っているフレンチやイタリアンも、元をたどれば実はレバニーズだったということもあるかもしれません。例えば、今日イタリア料理として人気の高いパスタのルーツは、中近東のクスクスだったのではないかしら? また、レバノンで食べられている丸いパンは、あらゆるパンの原形なのでは?
私は、そんなことを考えながら、馬喰町ART+EATのランチメニューのレシピを作成しました。そしてこれからこのコーナーで、少しずつレバノン料理や、私が暮らした世界の国々のお料理をご紹介していきたいと思っています。
●トマトソースでマトンのミートボールを煮込んだレバノンの家庭料理。マトンはミンチにして、タマネギのみじん切り、クミン、オールスパイスなどの香辛料を入れてよくこねます。中央に松の実を入れて丸め、トマトソースで煮込みます。みじん切りにしたパセリを混ぜたご飯もボール状に丸めていっしょに盛りつけました。
*日本ではマトンになじみが薄いせいか、食べず嫌いの人も多い気がします。フレッシュなお肉であれば、臭みがなくてほんとうにおいしいですよ。さまざまなハーブやスパイスを使えばさらに風味がアップ。このお料理は、レバノンでも人気の高いマトン料理です。
もうすぐ馬喰町ART+EATのメニューにも加わりますので、ぜひ召し上がってください。
小川先生のこと
小川先生は、世界各国で生活した体験を生かして、日本中近東アフリカ婦人会のメンバーとして国際交流のための活動をする傍ら、さいたま市緑区三室公民館で毎月第二月曜日に「世界の食卓」というお料理教室で教えていらっしゃいます。